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研 究 内 容

私は量子コンピューターの研究を行なっています。以下ではその内容について簡単に説明します。


物理理論とは、自然界を記述する数学的枠組みであり、1900年代前半までは、古典物理理論(古典論)というものが使われてきました。これは、ロケットや車や天体など「大きな」ものの動きを説明するニュートン力学や、エネルギーやエントロピーを扱う熱力学、そして電磁気の振る舞いを説明するマックスウェルの電磁気学などが含まれます。


ところが、1900年代前半にかけて、原子や光などの「小さな」世界は、古典論ではうまく説明することができず、実験といろいろ食い違う結果がでてきてしまう、ということが分かってきました。そこで、そのようなミクロな世界を記述するのに適した、量子論という新たな物理理論がアインシュタインやシュレディンガー、ハイゼンベルク等の多くの物理学者たちによる研究を通じて生み出されたのです。この量子論というのは、死んだ猫と生きた猫の「重ね合わせ」状態が起こるとか、壁をするっと通り抜けることができるとか、遠く離れた人と異常に強い相関が持てる、等の、非常に直感に反した現象がいろいろ出てくるため、多くの研究者を長年にわたって魅了してきているとても面白い物理理論です。


さて、現在我々の身の回りにはいたるところにコンピュータがあります。オフィースの机の上にはデスクトップパソコンがありますし、車や冷蔵庫のなかにもコンピューターがあって、情報を処理しています。スマートフォンも小さなコンピューターそのものです。コンピュータは電子と呼ばれる電荷をもった小さな粒子たちの流れを制御することにより計算を行なっています。この流れを制御する部分を計算素子といいますが、この計算素子の一個のサイズが小さければ小さいほど、より多くの計算素子を一つの箱の中に「詰め込める」わけですから、計算の「速度が向上する」ということになります。


現在は、多くの研究者や技術者たちによって、計算素子をどんどん小さくしていく、という努力がなされています。今のところは計算素子は十分大きいので、古典論で記述できますが、どんどん小さくしていって、ついには原子数個のレベルまで達してしまうと、計算素子はもはや古典論ではなくて量子論で記述されるようになります。そうすると、上記で述べた、「重ね合わせ」や「壁をトンネル」、「異常に強い相関」などの、変な現象が起きてしまい、計算素子が正しく動作しなくなるのでは、という懸念がありました。


ところが、この変な現象というのは、古典論にはない、量子論特有のものなので、その変な現象を逆に積極的に利用することにより、古典論にとどまっていては決してなし得ないような、超高速な計算が可能になるのではないか?というアイデアが1982年あたりから、ファインマンやドイチ等により考えられてきました。量子コンピューターの研究というのは、このように、量子論に従うコンピューターを研究する学問のことです。


量子コンピューターの研究は、初めの頃は単にマニアックな人が趣味的に行なう非常にアカデミックなテーマでした。ところが、1994年に、米国ベル研究所のショアーが、量子素因数分解アルゴリズムを発見してから状況が大きく変わりました。大きな整数を素因数に分解するのはとても計算時間がかかるということが知られており、その大変さが、現在我々がインターネットなどで使っている暗号のベースになっていたりします。ところが、ショアーは、量子コンピューターを使えば、素因数分解が高速にできる、ということを示したのです。この結果は、量子コンピュータは単なるアカデミックなテーマではなく、大きな実用性をもつ夢のコンピューターである、ということを示唆しており、幅広い分野に大きなインパクトを与えました。このショアーのブレークスルー以来、量子コンピューターの研究が爆発的に進み始めました。現在では、量子コンピューターは、物理や工学だけでなく、化学や数学をも巻き込んだ大きな分野横断・学際的テーマとして世界中で研究がなされています。理論だけでなく多くの実験も行なわれ、2012年には、光とイオンをつかって実験を行なったフランスと米国の研究者に対してノーベル物理学賞が与えられました。


私はこの量子コンピューターの理論的側面を研究しています。特に、最近は、「セキュアークラウド量子計算」について研究を行なっています。


今我々は、ノートPCやスマートフォンのように、持ち運びのできる小さなコンピューターを使っていますが、コンピューターが作られた初期のころは、体育館一杯占めるほどものすごく巨大で、しかもしょっちゅう故障するため、多くの専門家が常に監視していないといけないようなしろものでした。また、現在の最新鋭のスパコンや、データーサーバー等も、冷却装置等の特殊な設備を必要とするため、専用のセンターを設けて設置されています。


量子コンピュータが将来できたとしても、同じことが起こると考えられます。したがって、一般市民が自宅に気軽に量子コンピューターを持つことは難しく、国や大企業などのお金と技術をもった組織が専用のセンターを設けて一元管理・運営し、一般市民は自宅からネットを通じてアクセスして利用するようになると考えられます。つまり、「クラウド」的に利用されるだろうと考えられます。


そのようなクラウドにおいて大きな問題となるのが、利用者のプライバシーをどう守るか、ということです。例えば、市民が税金や戸籍の手続きのために、自宅からネットを通じて市役所のサーバーにアクセスした場合、その市民の個人情報が漏れてしまっては困ります。(量子でない)古典コンピューターのクラウドにおいては、このような安全性の問題は長く研究されてきました。大きなブレークスルーとしては、2009年に米国IBMの研究者が、データを暗号化したままサーバ上で計算する方法(Fully homomorphic encryption)を提案しました[Gentry, STOC 2009]。しかしこれは非常に複雑なプロトコルであり、しかも、安全性が、計算量的安全性と呼ばれる種類の安全性しか担保できていません。(計算量的安全性というのは、現在の計算機では解くのに非常に時間のかかる問題をベースにした暗号であるため、将来の計算機の発達により破られる恐れがあります。)


一方で、量子クラウドについては、同じく2009年に、イギリス・カナダ・シンガポールの研究者らにより、無条件安全性を担保したまま実現できることが証明されました[Broadbent, Fitzsimons, and Kashefi, FOCS 2009]。(無条件安全性とは、この先どれだけ計算機の性能が向上しても、物理理論が破れない限りは安全という意味です。)この成果は非常に大きなインパクトを持ち、「量子コンピュータの研究においてここ10年でもっとも大きな成果」とも評されています。また、この理論的提案は、2012年にウィーンのグループにより、光を用いて実験的に実証され[Barz, et. al. Science 335, 303 (2012)]、英国BBCのニュース等でも取り上げられました(http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-16636580)。

 

ところが、このBroadbentらの結果は、基本的なプロトコルの提案がメインであったため、外界からのノイズに対する、量子コンピューターの安定性については詳しく分析されていませんでした。量子コンピュータは、我々が現在使っている古典コンピューターに比べて非常に不安定であり、外界からの弱いノイズですぐに計算データが破壊されてしまう、という大きな問題点があります。


このような、量子コンピューターの安定性の問題は長らく研究されており、多くの理論的、実験的成果があります。その中でも、最も面白いものに、「トポロジカル量子計算」というものがあります。これは、2000年頃に米国マイクロソフト等の研究者らによって提案された方法であり、anyonと呼ばれるミクロな粒子を用いるものです。このanyonというのは、物性物理で長く研究されてきた、量子ホール系等のトポロジカル秩序を発現する系に現れる非常に面白い粒子であり、上図左のように、anyonを交差させるだけで、量子計算が実現できてしまうのです。重要な点は、外界からのノイズでanyonの軌跡が多少乱されて上図の右のようになってしまっても、トポロジカルに上図左と同じ軌跡でありさえすれば、同じ量子計算が実現できるのです。この意味で、ノイズ耐性のある安定な量子計算が実現できるのです。


2012年に、私と大阪大学の藤井(現・京都大学)は、このトポロジカル量子計算を応用して、安定かつセキュアーなクラウド量子計算を実現する方法を提案しました[Morimae and Fujii, Nature Communications 3, 1036 (2012)] (下図参照)。また、エラー耐性率を具体的に計算し、それほど低くない値でセキュアーなクラウド量子計算が可能であることを示しました。これにより、セキュアなクラウド量子計算を安定に実現することが原理的には可能であることが示されたのです。


私は、今後も、このトポロジカルクラウド量子計算の研究をさらに進めていく計画です。

森前 智行

助教

先端工学研究チーム

情報科学分野